米国市場には様々な優秀なETFが存在し、実際に購入されている方が多いと思います。
米国ETFにはキャピタルゲイン(*1)を最大限に得るために高トータルリターンを狙えるS&P500のような株価指数に連動して運用されるインデックスファンドや、インカムゲイン(*2)を得るために高配当銘柄だけを集めて運用されるアクティブファンドなど数多くの特徴を持ったETFが存在します。
SNS等で「VTIは米国全体を購入しているのと同じだからその他のETFと銘柄が重複するから必要ないんじゃないか??」という意見が見られます。
この記事ではこの「銘柄の重複」に関する考え方について実際に私が運用を行っている米国ETFポートフォリオ(VTI / VIG / QQQ)を用いて解説をしていきたいと思います。
実際にはここにVXUS(米国以外の全世界)がポートフォリオに入っていますが、今回の記事は米国株への投資にフォーカスして記事を書かせていただきます。
こんな方に読んでいただきたい
- VTIを中心にハイブリッド投資をされている方
- 米国ETFでポートポートフォリオを作成したい方
- 銘柄の重複に意味がないと考えている方
(*1) キャピタルゲイン:株式や債券など、保有している資産を売却することによって得られる売買差益のこと
(*2) インカムゲイン:資産を保有していることで得られる収入のこと。債券投資や預金などから生じる受取利子、信託の結果としての収益分配金、株式投資の場合の現金配当などの総称。
(*3) ポートフォリオ:金融商品の組み合わせのことで、特に具体的な運用商品の詳細な組み合わせを指します。
※この記事のデータは2020年9月20日時点のもので表についてはBloomberg, 各ETFのセクター情報については各運用会社のHPから入手したものになります。
銘柄のおさらい
それではまず各銘柄の特徴についておさらいしていきます。
「そんなの知っとるわ!」という方は目次から次の項目に飛んでいただければと思います。
VTIの特徴
それではまずVTIの特徴から見ていきましょう。
VTIの基本情報
VTIの特徴として始めに挙げられるのはやはり「銘柄数」となります。
VTIはS&P500も含めた全米の大企業、成長企業を含む中小企業約3500社に分散して投資が可能でこれだけでも分散投資ができる代物です。
また、設定年が2001年という事で「ITバブル(2002年)」や「リーマンショック(2008年)」といった大きな暴落を経験した上で成長し続けている点も挙げられます。
運用総額が大きい事にもより信託手数料も0.03%と非常にが安く一株単価も比較的安い事から非常に投資し易い銘柄と言えます。
5年間の株価の推移を見てみても現状はS&P 500に匹敵する成績を収めています(赤色がVTIで緑色がVOO)
VTIのセクター比率
VTIのセクター比率をレーダーチャートで示すと下記の通りとなります。
- 大企業、中小企業(成長株)を含む全米の3500社への分散投資が可能
- S&P500(VOO)に匹敵する高いトータルリターン
VIGの特徴
VIGの特徴を見ていきます。
VIGの基本情報
VIGの特徴としてまず始めに挙げられるのが「連続増配株」で構成されている点です。VIGの組み入れ銘柄の組み入れ条件として10年以上の連続増配があり、数千ある米国株式の中からただ増配を続けているだけではなく、増配の可能性が低い銘柄は排除されています。
構成銘柄が「製造資本財」や「消費サービス」の比率が50%近くとなっており、暴落時の下げ幅が少ないことも特徴に挙げられます。
5年間の株価の推移を見てみても現状はS&P 500に匹敵する成績を収めています(緑色がVOOで赤色がVTIで水色がVIG)
VIGのセクター比率
VIGのセクター比率をレーダーチャートで示すと下記の通りとなります。
下記のように「資本財」セクターの割合が大きく、「一般消費財」、「生活必需品」といったセクターなどVTIの苦手分野等の補完ができています。
- 10年以上の連続増配株で構成される
- VTIの苦手部分を補うセクター分布
- S&P500(VOO)に匹敵するトータルリターン
QQQの特徴
QQQの特徴を見ていきます。
QQQの基本情報
QQQはNASDAQ 100に連動しています。NASDAQ 100は米国の中でもハイテク株(情報技術/電気通信)を中心とした中小企業やハイテク産業など主にベンチャー向けの新興市場となります。
ファンドのセクター比率も情報技術/電気通信だけで約70%を占めておりハイテク株に特化したETFであると言えます。
QQQにおいて特筆すべき点はトータルリターンの高さです。
下記は5年チャートになりますが、 QQQはこの期間においては完全に他の銘柄をアウトパフォームしていますね。
QQQのセクター比率
QQQのセクター比率をレーダーチャートで示すと下記の通りとなります。
下記のように「情報技術」、「電気通信」といったGAFAMを含むハイテクセクターの割合が大きいのが特徴です。
- NASDAQ 100に連動して運用される
- ハイテクに特化したETF
- 圧倒的なトータルリターン
組み合わせの考え方
それでは実際に私が運用している下記のポートフォリオについて考え方を解説していきます。
VTI / VIG の組み合わせ 長期投資ポートフォリオ
それでは、ハイブリッド投資におけるVTIとその他のETFとの組み合わせについて私が長期目線で運用しているポートフォリオ(VTI / VIG)を用いて解説をしていきます。
VTI/VIGの銘柄分布
下記のベン図は各ETFの銘柄の分布を視覚的に表現したものですが、VTIがVIG構成銘柄をほとんど含んでいることがわかります。
ここで、VTIで他の銘柄を含んでいるのであればVTIだけで良いのではないか?と思われた方も多いのではないかと思います。
これに関しては個人的には正しい見解と思います。VTIは実際に単独でも立派なポートフォリオとして成り立っています。
ここからは「組み合わせることの効果」と「重複によるデメリット」も含めて解説を行っていきたいと思います。
VTIにVIGを追加する理由
ここからは、私がVTIに加えてVIGを追加して投資している理由について説明していきます。
前述の通り、
VTIは「中小企業(成長株)を含む」
VIGは「VTIの苦手セクターを補うセクター分布」
という特徴を持っています。
VTIは確かに米国市場全体に投資している事には間違いないのですが「時価荷重型」のインデックスファンドであることからセクター毎に満遍なくという意味では偏りはできてしまっているのが事実です。
それぞれのETFの欠点をそれぞれで補う事でポートフォリオ全体の安定性を増す効果を期待しています。
相互の補完効果(VTI/VIG)
- VTIは「中小企業(成長株)を含む」
⇨米国全体、成長株も含めて投資ができる。 - VIGは「VTIの苦手セクターを補うセクター分布」
⇨VTIの欠点(セクター分布の偏り)を補っている。
VTI / VIG のセクター分布
セクター分布をレーダーチャートで示しながらさらに解説を行っていきます。
まず各ETF毎のレーダーチャートを確認していきます。

前述のように、VTIは「時価過重型」のインデックスファンドであるため、時価総額の高い銘柄の割合が大きくなり、時価総額の低い銘柄の割合が低くなります。
そのため、VIGを取り入れることでVTIの中で比率の低いセクターや銘柄を補強する事ができます。銘柄の重複については私はデメリットとしては考えておらずむしろ強化されていると捉えています。
実際にそれぞれのETFを1:1の資産比率で組み合わせた場合のレーダーチャートを見ていきましょう。

この組み合わせは各セクターに均等に分布しており、景気循環(セクターローテーション)に対してもバラツキの少ない分布を示しています。
長期投資を考えた際に「長期的なトータルリターン」と「インカムゲインの源泉を構築する」という私の投資目的に対しての私にとっての最適解の一つと考えています。
VTI / VIG / QQQの組み合わせ 中期投資ポートフォリオ
それでは次にハイブリッド投資におけるVTIとその他のETFとの組み合わせについて私が中期目線で運用しているポートフォリオ(VTI / VIG / QQQ)を用いて解説をしていきます。
VIG / QQQの銘柄分布
まずは銘柄の分布を見ていきます。下記のベン図は各ETFの銘柄の分布を視覚的に表現したものですが、VIG/QQQに関してはの構成銘柄の重複は殆どありません。

*ベン図はハルさん(Twitterアカウント:@haru_tachibana8)に作成いただきました。
https://twitter.com/haru_tachibana8/status/1298264261882310656?s=20
QQQを追加する理由
QQQを追加した目的は資産形成のスピードをあげるためですが、その理由は「ハイテクセクターの成長を享受できる」ことです。
QQQ/VIGには銘柄の重複がないことから、ハイテクセクターの強化を効率的に行うことが出来ると考えています。
- VTIは「中小企業(成長株)を含む」
⇨SPYDの欠点(非成長株の偏り)を補っている。 - VIGは「VTIの苦手セクターを補うセクター分布」
⇨VTIの欠点(セクター分布の偏り)を補っている。 - QQQは「ハイテクセクターに特化している」
⇨中期的な資産形成のスピードアップ
VTI / VIG / QQQのセクター分布

実際にそれぞれのETFを1:1:1の資産比率で組み合わせた場合のレーダーチャートを見ていきましょう。

VTI/VIGのバランスを取れた長期投資ポートフォリオにハイテクセクターを追加した中期目線での資産形成のスピードをあげるためのポートフォリオが完成しました。
今回は3つの銘柄を1:1:1で組み合わせた場合を例にしているため、若干ハイテクにより過ぎている気がします。この銘柄の配分を変える事でバランスを調整することも可能です。
長期投資長期的な資産形成という基盤は変えず中期的に資産形成のスピードを加速させることができるポートフォリオの最適解の一つと考えています。
混ぜることのメリット
セクターの分散
私が米国ETFを組み合わせて運用している理由で一番大きいのは「セクターの分散」です。前述の通り私は米国株の中でのセクター分散を行うことが重要であると考えています。
この分散に取り組む前提として私は米国株だけでなく、全世界株式やコモディティによって「地域分散」、「アセットクラスの分散」を行っています。これはそれぞれの投資対象の相関率が低い組み合わせで運用することで資産全体のリスクを低減させるという目的です。
この分散を行った上で、一番割合の大きい米国株の中でも分散を行う際にこの「セクター分散」が重要であると考えています。
この分散を行う目的においては「運用中ではなく、取り崩しの際の株価変動による資産の増減のボラティリティを下げるということ」という理由が大きいです。
米国株の株価は基本的には右肩上がりの成績を今まで残しており、その傾向については変わらないものと思っていますが、その中でも景気循環の中で好調なセクター/不調なセクターというのがその時々で生まれます。その変動の影響を受けず取り崩ししやすくするためにセクター分散を行っています。
成長セクターの強化
2つ目の目的は成長セクターの強化です。
私はQQQを中期的なポートフォリオに入れていますがこの目的は分散ではなく、資産形成において成長セクターの株価上昇を享受する事です。
どれだけリターンが欲しいのか?については投資目標額や投資期間や年齢や家族構成によって投資目的は人それぞれ変わってきます。
VTI/VOO/VTのような市場平均での運用でのリターンで問題なければそれ以上リスクをとる必要はありませんし、それ以上のリターンが必要なのであればリスクをとる必要がある。ということです。
私の場合は投資期間が短く限られていることもあり、リスクをとってリターンを得る必要があるためこのような選択をしています。
混ぜることへのデメリット
ここまでは良い面ばかりはなしてきましたが、良い面があれば悪い面もあるということでデメリットについても触れておきたいと思います。
デメリットとしてよく挙がるのは下記の項目となると思います。
- 銘柄数が増えることで手数料が多くかかるのでは??
- 本当に分散になっているの??
- リスクが増えるのではないか?
❶、❷に関しては実際にシミュレーションを行った結果も含めて解説をしていきたいと思います。今回のシミュレーションは下記の条件で行っています。
- VTIのみ毎月$2,000投資した場合(赤色)
- VTIとVIGを毎月合計$2,000投資した場合(緑色)
- VIGのみ毎$2,000投資した場合(水色)
*2005年5月から2020年6月までの株価データを用いてそれぞれ最大$2,000になる口数だけ購入した場合で算出しています。
例えば…
単価が$150の銘柄の場合
$2,000/$150=13.33株となるため”13株”購入
単価が$220の銘柄の場合
$2,000/$220=9.09株となるため”9株”購入
算出に使用したデータはGooglefinance関数で呼び出したものです。
運用結果シミュレーション
トータルリターン
まずは上記のシミュレーション結果を折れ線グラフで表現したデータからお見せします。折れ線グラフの色はそれぞれ下記の通りです。
*VTIのみ(赤色)、VTIとVIG(緑色)、VIGのみ(水色)

グラフから見えることは「VTIのみの成績が一番良かった」ということです。
ですがこれはあくまでもVTIの成績がVIGを上回っていたことによります。このことにより混ぜることがダメだという結論にはならないと考えています。
この考えの前提としては前述の通り多少リターンは下がってもセクター分散を行う価値があると考えているからです。そういう意味からするとこの期間のVTI+VIGを混合した運用結果は十分納得のいく結果といえます。
しかし、上記のチャートからも分かるようにVIGとVTIは同じような値動きをしており、資産形成家庭の分散となっているのかどうか?といえば必ずしもそうではありません。
長期の資産形成においては相関率の低い銘柄を組み合わせて分散効果を図る(地域分散、資産クラス分散)というのが基本的な考え方ですので、その点は頭に入れて置く必要があると考えます。
手数料/経費率
次にシミュレーションの方法で積立を行った場合の経費がどの程度かかっているのかについて確認していきます。下記はそれぞれのパターンでどの程度経費(手数料+運用経費)がかかるかをまとめた表になります。
このシミュレーションでは購入時に.0495%の手数料と年当たりVTI(0.03%)、VIG(0.06%)の経費が年間の資産総額に対してかかるという前提で産出しています。
個人的にはこの差分はデメリットと呼ぶほどのものではなく、「組み合わせる目的が明確」であれば無視して良い結果なのではないかと考えます。(これは人それぞれの感覚によると思いますので、人によってはこの経費のさは看過できないものであるという方もいらっしゃるかもしれません。)
本当に分散になっているのか??
これについてはYESでありNOであるといえます。
米国株だけのポートフォリオに関してはこれだけでは分散効果としてはアセットクラスの面においても地域においても個人的には不十分であると考えています。そういう意味ではNOです。
ただしそういった分散を行っている前提としてはセクター分散を行う事は取り崩し局面に対する分散効果という意味でYESであるといえます。
これについては個人の主観になりますのであくまでの一意見として捉えていただけると幸いです。
リスクが増えるのではないか?
これについてはYESです。
私は中期的なポートフォリオとしてQQQを盛り込んでいますが、リスクを伴う事を忘れてはいけません。リスクをとる事はそのリスクに応じた値動きの幅を受け入れる必要があるため、よくいう自分のリスク許容度を確認した上でリスクをとる。という考えが必要であると思います。
ちょっと耐えられないと感じる場合はリスクを取りすぎている可能性があるので注意が必要です。
まとめ

この記事では米国ETFで銘柄を重複させることに意味があるか?について私のポートフォリオを例に私の見解をまとめさせていただきました。
このポートフォリオやアセットアロケーションの考え方については私の投資投資目標や投資目的にそって考えた結果であり、全ての方に当てはまるものではないと考えています。
ですが、米国ETFでのポートフォリオの構築に関する考え方の一つとして参考にしていただければと思います。
米国には様々な特徴を持った優良なETFが多数存在します。各々のETF単体でも十分に分散が取れているものも多数存在しますが、組み合わせる事でさらにセクター分散の効いたポートフォリオやリターン上昇させるようなポートフォリオを作成する事ができます。
皆さんも保有している銘柄に対して銘柄の追加の検討をしてみてはいかがでしょうか?もしかしたらあなたにぴったりな組み合わせが見つかるかもしれません。
最後に…
この記事は我が家の全体の資産に対して「生活防衛資金」、「余剰資金」、「投資余裕資金」を確保した上での投資計画として作成しております。投資に対してリスクをとりすぎないという前提は変えておりません。
投資はやはり自己責任になりますので、様々な情報に対して自分で納得した上で行動する前提で臨む姿勢が必要であると思います。(上手くいかなかった時に誰かのせいにしてもお金が戻ってくることはありませんので。。。)
金融リテラシーをあげて豊かな人生を歩んでいきましょう!!
投資はあくまでも自己責任!
自分自身が納得した上で行動を!